甲状腺機能亢進症とは

心臓がドキドキしたり、汗がたくさん出たり、体重が減少したりします。

 甲状腺はいろいろな臓器がスムーズに働くために必要なホルモンです。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、元気を通り越して体が無駄にエネルギーを使いすぎてしまいます。心臓が動きすぎると、脈拍が速くなり動機を感じます。熱をたくさん産生するため、よく汗をかきます。腸が動きすぎて下痢になったり、脳の働きが活発になりすぎて不安感が強くなったり、眠れなくなったりします。卵胞の発育スピードも速くなり月経(生理)の周期が短くなります。また、手が震えてくることもあります。結果として体重が減り、疲労感が強くなります(全ての症状が出るわけではありません)。なお生理の量が少なくなるのは甲状腺機能亢進症では血を止める力も亢進しているからです。

甲状腺機能亢進症の症状
甲状腺機能更新の時のホルモンの状態

 甲状腺は、正常の状態では頭から命令を受けて、甲状腺ホルモンの量を調節しています。一般的に甲状腺の機能をみる時はTSHとfT4、fT3というホルモンを確認します。TSHは脳の下垂体というところから出て、甲状腺にホルモンを出しなさいと命令するホルモンです。fT4、fT3はともに甲状腺ホルモンです。甲状腺機能亢進症の時は、甲状腺ホルモン(fT4, fT3)が高くなり、甲状腺ホルモンが高くなると、脳がもう甲状腺ホルモンはいらないと判断するためTSHが低くなります(一部TSHが上がるものもあります)。

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甲状腺機能亢進症の原因

 甲状腺の機能が亢進する時は、大きく分けると2つのパターンがあります。ひとつは甲状腺自体の働きが亢進する状態で、バセドウ病(グレーブス病)とプランマー病があります。もうひとつは甲状腺が壊れてしまい、甲状腺の中に蓄えられていたホルモンが一気にもれ出てしまう状態で、無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎があります。

バセドウ病
 甲状腺機能亢進症で最も頻度が高いのがバセドウ病です(約90%)。これは甲状腺を刺激する物質が体の中に出来てしまい、この物質が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンがたくさん出てしまう状態です。
プランマー病
 稀な病気です。甲状腺の中に甲状腺ホルモンを作り出す腫瘍が出来て、この腫瘍から勝手に甲状腺ホルモンがたくさん出てしまう病気です。
無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎
 無痛性甲状腺炎も亜急性甲状腺炎も甲状腺の一部が壊れて、そこから甲状腺ホルモンが漏れ出てしまうことで、甲状腺機能亢進症を生じる状態です。
その他
 他に妊娠性一過性甲状腺機能亢進症、TSH産生腫瘍などで甲状腺機能が亢進することがあります。

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バセドウ病(グレーブス病)

1)原因

甲状腺を刺激する物質が出来てしまう病気です

 正常では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)というホルモンが必要に応じて下垂体から分泌され、甲状腺にあるTSH受容体(TSHレセプター)という場所にくっつくと、その刺激で甲状腺から甲状腺ホルモンが分泌されます。バセドウ病になるとTSH受容体にくっつくTSH受容体抗体(TSHレセプター抗体)というものが体の中で勝手にたくさん作られるようになります。そのTSH受容体抗体が甲状腺を刺激するため甲状腺ホルモンがたくさん出て甲状腺機能亢進症になります。なぜ、TSH受容体抗体が出来るかは分かっていません。

バセドウ病の病態

2)症状・診断

 症状として甲状腺機能亢進症の症状が出現します(甲状腺機能亢進症とは)。他にバセドウ病に特徴的な症状として眼球突出があります。バセドウ病により眼球を動かす筋肉が厚くなってしまうためです。バセドウ病の全ての方で眼球が突出するわけではなく、バセドウ病の一部の人に生じます。診断は血液検査で甲状腺ホルモンとTSH受容体抗体を測定して行います。TSH受容体抗体が血液中に存在すればほとんどがバセドウ病となります。TSH受容体抗体検査が陰性の時は、アイソトープ検査(人体に無害な放射能を用いる検査)を行って診断することもあります。また超音波でほぼ左右対称に甲状腺が腫大し血流が全体的に増えていることも診断の助けとなります。

3)治療

 状況によって以下の治療法からどれを行うか選択します。

薬剤
 日本では最も多く行われている治療です。甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬を使用します。この薬剤によりTSH受容体抗体も減少します。症状や甲状腺ホルモンの値をみながら量を調節して行きます。一般的には再発を考え2年以上は薬を飲み続ける必要があります。2日に1錠に薬が減れば、状況によっては薬を中止できる場合があります。しかし、再発することも多いので、副作用がなければ飲み続けるという選択肢もあります。また大量のヨードの服用で甲状腺機能が抑えられることから大量のヨードを治療に用いることもありますが(Wolff-Chaikoff effect)、ほとんどの場合1ヶ月前後で効果が鈍くなります。
 メルカゾール、チウラジール、プロパジールなどの薬を使います。
アイソトープ治療
 甲状腺に取り込まれるヨードを利用した治療です。甲状腺を破壊するような放射能をもつヨード(放射性ヨード)を内服します。内服した放射性ヨードは甲状腺に取り込まれ徐々に甲状腺を破壊していくことで甲状腺ホルモンを正常に保つ治療です。一度治療を行えばそれだけでよいので、甲状腺ホルモンがおちつけば薬を飲み続ける必要がありません。数年して甲状腺機能が低下してしまうことが多く、その場合は甲状腺ホルモンを服用し続ける必要があります。また、妊娠中や今後近いうちに妊娠を希望している時はアイソトープ治療を行うことができません。
手術
 甲状腺が大きく腫れていたり、甲状腺に腫瘍がある時は手術を選択することもあります。甲状腺の一部を切除することで甲状腺ホルモンを安定させる治療です。

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無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎

甲状腺が破壊される病気です。
破壊によって漏れだした甲状腺ホルモンによって甲状腺機能亢進症が生じます。
破壊性甲状腺機能亢進症

 甲状腺機能亢進症があり、バセドウ病ではない場合に無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎が考えられます。これらは甲状腺に炎症が生じ、甲状腺が破壊されることで甲状腺ホルモンが漏れだしている状態です。漏れだした甲状腺ホルモンによって甲状腺機能亢進症が生じます。甲状腺に痛みがあったり、押して痛い時は亜急性甲状腺炎になります(通常、バセドウ病、無痛性甲状腺炎には痛みがありません)。

 甲状腺機能亢進症があり、TSH受容体抗体検査が陰性の場合、アイソトープ検査を行います。甲状腺ホルモンはヨードを原料にして作られます。バセドウ病では甲状腺ホルモンの合成が活発に行われているので、ヨードが甲状腺にたくさん取り込まれています。反対に無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎では甲状腺ホルモンの合成が増えているわけではなく甲状腺が破壊されている状態なのでヨードは甲状腺にはあまり取り込まれません。アイソトープ検査ではこのヨードが甲状腺に取り込まれているかどうかをみる検査です。ヨードが甲状腺にあまり取り込まれていなければ無痛性甲状腺炎か亜急性甲状腺炎となり、痛みがあれば亜急性甲状腺炎、なければ無痛性甲状腺炎ということになります。ただし実際には症状や血液検査による甲状腺抗体や甲状腺ホルモン検査、超音波検査などで診断がつくことが多く、バセドウ病との鑑別が困難な時のみアイソトープ検査が行われることがほとんどです。

1)無痛性甲状腺炎

原因
 多くの場合、慢性甲状腺炎(橋本病)あるいはバセドウ病があり、その状態に何らかの誘因が加わって甲状腺が崩壊する病気です。特に出産後に多く生じますが、出産と関係なく起こることも珍しくありません。
症状・診断
 甲状腺機能亢進の症状が生じます(甲状腺機能亢進症とは)。痛みはありません。甲状腺機能亢進症があり、甲状腺に痛みがなく、バセドウ病でない場合、無痛性甲状腺炎となります。バセドウ病か無痛性甲状腺炎かの判断は超音波検査、TSH受容体抗体検査、アイソトープ検査などで行います。
治療
 通常治療は必要なく、1-4ヶ月で自然に軽快します。甲状腺機能亢進症の症状が強い時にはβブロッカーという動悸などを抑える薬を使用します。また、回復後に甲状腺機能が逆に低下することがしばしばあります。この場合も治療が不要なことは多いのですが、甲状腺機能低下症の症状が強かったり、甲状腺機能が長期にわたって低下する場合は甲状腺ホルモン(チラージン)を内服する必要があります。

2)亜急性甲状腺炎

原因
 原因は不明ですが、ウィルス感染によると考えられています。女性に多く、夏に多く発症します。
症状・診断
 甲状腺機能亢進症状が生じ、特に発熱は他の原因による甲状腺機能亢進症よりも高頻度に認めます(甲状腺機能亢進症とは)。甲状腺を押すと痛い(圧痛がある)ことが特徴で、痛い場所が移動することもあります。甲状腺機能亢進症があり、 甲状腺に圧痛があれば、ほとんどが亜急性甲状腺炎です。ただし、甲状腺に圧痛が生じる疾患として急性化膿性甲状腺炎と甲状腺未分化癌があります。これらは超音波検査や血液検査で鑑別が可能です。
治療
 鎮痛薬(非ステロイド性の一般的な鎮痛薬)を使用します。甲状腺機能亢進の症状が強ければβブロッカーという動悸などを抑える薬を使用します。痛みが強い時は、ステロイド薬を使用することもあります。ステロイド薬を使用した場合は、薬を減らしていく途中に再度痛みが生じることがあり、注意深く薬の量を調節していきます(症状がよくなったからといって、絶対に自己判断で薬をやめてはいけません)。通常2-4ヶ月で治癒し、治癒した後は再度亜急性甲状腺炎を起こすことはほとんどありません。また、甲状腺の機能も治癒後は正常に戻ります。

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その他の甲状腺機能亢進症

 他にも甲状腺機能亢進症をおこすものとして次のようなものがあります。

  • 妊娠:妊娠時に産生されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンに甲状腺を刺激する働きがあります。通常は甲状腺機能亢進症になることはありませんが、人によってhCGの量に差があるため、hCGが多い場合は甲状腺機能亢進症になることがあります。
  • hCG産生腫瘍:異常妊娠やhCGを産生する腫瘍で甲状腺機能が亢進症となることがあります。
  • TSH産生腫瘍:甲状腺刺激ホルモン(TSH)を産生する腫瘍で甲状腺機能亢進症が生じます。
  • 甲状腺ホルモン不応症(下垂体型):甲状腺刺激ホルモン(TSH)を産生している下垂体が甲状腺ホルモンを感じとることができないため、甲状腺ホルモンが体にないと勘違いして一生懸命TSHを分泌してしまう病気です。

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