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婦人科的な悩み妊娠中の不安内科的な病気
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女性・妊娠と甲状腺−2
女性における甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)と妊娠、卵巣機能との関連について説明しています。
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 卵巣機能と甲状腺機能低下症

甲状腺低下症は排卵が起きなくなったり黄体の機能が低下することで
不妊症・不育症の原因となることがあります

 ほとんどの甲状腺機能低下症は甲状腺自体に原因があります。甲状腺ホルモンは卵胞の成長に影響しているので甲状腺ホルモンが足りなくなると卵胞が成長せずに排卵が起きづらくなります。仮に排卵が起きたとしても卵胞の成長が不十分だと妊娠を維持させるのに必要な黄体の機能が低下することがあります。
  また甲状腺から甲状腺ホルモンの分泌が低下すると頭から甲状腺を出せという命令がたくさん出て甲状腺を刺激します。この時増えるTRHというホルモンがプロラクチンを増やします。このプロラクチンもまた卵胞の成長を妨げたり黄体の機能を低下させます。
  以上のような機序で卵巣の機能が低下し、生理が乱れたり、不妊症・不育症の原因になったりします。

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 妊娠と甲状腺機能低下症

母体の甲状腺ホルモンは胎児の成長に必要と考えられています

1)母体の甲状腺機能低下症が児に与える影響

母体の甲状腺ホルモンはわずかですが胎盤をとおり胎児に移行します

 以前、母体の甲状腺ホルモンは胎盤を通過しないため、甲状腺機能低下症は不妊症の原因にはなるが、妊娠すれば甲状腺機能低下症は特に胎児には影響しないと考えられていました。しかしその後、母体の甲状腺ホルモンはわずかですが胎盤を通過し胎児に行っていることがわかりました。そして妊娠の初期から中期にかけて母体の甲状腺ホルモンが低いと児の精神発育に影響する(IQが低くなる)という研究データが発表され、現在まだ確立した見解ではありませんが、母体の甲状腺ホルモンは胎児の発育(特に精神・知能・神経などの発達)に不可欠であると考えられています。

 妊娠初期にはまだ胎児の甲状腺がほとんど発達していないので胎児自身から甲状腺ホルモンを産生することができません。しかしその妊娠初期にも胎児の脳には甲状腺ホルモンが存在することが動物実験で明らかになっています。したがって妊娠初期に胎児の体内に存在する甲状腺ホルモンは母体からの甲状腺ホルモンということになります。この母体からの甲状腺ホルモンが不足すると胎児の精神・神経の発達に影響する可能性が考えられています。
  甲状腺ホルモンにはT4とT3という2つのホルモンがあります。甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンのほとんどはT4が占めています。いろいろな組織でT4の一部がT3に変わります。T3の方がT4よりも3−5倍甲状腺ホルモンとして強い力があります。母体の甲状腺機能低下症があるとT4をT3に変える酵素の活性が上がります。この酵素は胎盤にも多く含まれるために、軽度の母体の甲状腺機能低下、甲状腺ホルモン不足はこの酵素の活性上昇によってある程度はカバーされます。

妊娠初期に出る妊娠性のホルモン(HCG)にも
甲状腺ホルモンを分泌させる働きがあります

  また妊娠初期にはヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)というホルモンが上がります。妊娠反応に用いられるのがこのHCGです。このHCGには甲状腺から甲状腺ホルモンを出させる働きがあります。つまりTSHと同じ働きがあります(TSHに比べれば甲状腺ホルモンを出させる力は弱いです)。

妊娠性ホルモンであるHCGに甲状腺ホルモンを増やす働きがあることは偶然ではなく、特に母体からの甲状腺ホルモンが必要な妊娠初期に少しでも母体の甲状腺ホルモンを増やすことで胎児へいく甲状腺ホルモンを確保するためとも考えられます。

甲状腺機能低下症のページ

2)胎児・新生児の甲状腺機能低下症

 胎児の甲状腺が生まれながらに(先天的に)欠損してしまう病気があります。通常、妊娠8−10週頃から胎児が甲状腺ホルモンを産生できるようになります。しかし先天的に甲状腺が欠損し甲状腺ホルモンを産生できないと胎児の体内の甲状腺ホルモンが少ない状態になり胎児の精神・神経発達に影響する可能性があります。この場合も母体からの甲状腺ホルモンが胎児にいくことで精神・神経の発達への影響を最小限に食い止めることができると考えられています。母体から胎児へいく甲状腺ホルモンはわずかですが、このわずかな甲状腺ホルモンが精神・神経発達が遅れないようにしていると考えられます。これは胎児の脳にもT4からT3に変える酵素がたくさんあることも影響していると思われます。ただし母体・胎児ともに甲状腺ホルモンの低下が高度だと胎児・新生児の精神・神経の発達が遅れ、骨の成熟なども遅れてしまう可能性が高まります。
  前述したように甲状腺ホルモンは少ないながらも胎盤を通り胎児に移行します。胎児が母体の甲状腺ホルモンを受け取るルートはそれだけではありません。妊娠後期になるにつれ、胎児は羊水を飲み込む動作を頻繁に行うようになります。羊水中にも母体からの甲状腺ホルモンが存在するので、胎児は羊水中の甲状腺ホルモンを飲むことでも体内へ母体の甲状腺ホルモンを取り込んでいます。

甲状腺機能低下症のページ

3)甲状腺機能低下症と甲状腺ホルモン補充

妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増えます

 もともと甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン補充療法(通常T4を内服)を行っている場合、妊娠すると必要なホルモン量が増えるので内服量を調整する必要があります。妊娠すると妊娠前に必要なホルモン量より25−50%増加します。これは胎盤で甲状腺ホルモンが分解されること、母体の甲状腺ホルモンが一部胎児へ移行することなどが関連しています。実際は1日の甲状腺ホルモン量を増やしたり、1日の量はそのままで週に2−3回倍の量を服用することなどで対応します(主治医と相談して自己判断で行わないようにしてください)。

 いずれにしても、妊娠初期あるいは妊娠前に甲状腺機能低下症がないかをしっかり確認し甲状腺機能低下症がある場合はしっかりと甲状腺ホルモン補充し、妊娠したら甲状腺ホルモンの補充量をしっかりと増やしておくことが重要になります。

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 慢性甲状腺炎(橋本病)と不妊症・流産

慢性甲状腺炎が不妊症・流産に影響する可能性があります

1)慢性甲状腺炎(橋本病)と不妊症

不妊女性は非不妊女性に比べ約2倍慢性甲状腺炎になっています

 不妊女性が慢性甲状腺炎を合併している確率は、不妊ではない女性に比べて約2倍高いといわれています。したがって慢性甲状腺炎が不妊の原因になっている可能性があります。しかし慢性甲状腺炎は様々な疾患を合併していたり、甲状腺機能を低下させたりすることがあるため、実際に慢性甲状腺炎そのものが不妊の原因になっているかどうかは現時点では結論が出ていません。今のところ慢性甲状腺炎があっても甲状腺機能が正常の場合、妊娠率にそれほど影響を及ぼさないと考えられています。ただし慢性甲状腺炎で甲状腺機能が低下している場合には上述のごとく妊娠率が低下すると考えられます。また多のう胞性卵巣症候群や子宮内膜症があると慢性甲状腺炎を合併している確率が高まるといわれています(慢性甲状腺炎の44%が子宮内膜症、26.9%がPCOS)。多のう胞性卵巣症候群や子宮内膜症は不妊症の原因となりますので、これらを合併していることで不妊症の原因となることがあります。

卵巣機能と甲状腺機能低下症
多のう胞性卵巣症候群のページ
子宮内膜症のページ
慢性甲状腺炎のページ

2)慢性甲状腺炎(橋本病)と流産

慢性甲状腺炎があると流産率が上昇しますが
適切な甲状腺ホルモン投与で予防できる可能性があります

 慢性甲状腺炎があると流産率は3−5倍に上昇します。なぜ慢性甲状腺炎があると流産率が上がるのかは今のところ分かっていませんが、いくつかの仮説はありますので下に示します。

  1. 慢性甲状腺炎は自己免疫性疾患(リウマチなどのように自分で自分の体を攻撃する物質ができてしまう病気)なので、免疫のバランスが乱れて流産につながる。
  2. 妊娠によって甲状腺ホルモンの必要量が大幅に増加するが、その変化についていけずに甲状腺ホルモンが足りなくなることで流産となる。
  3. 慢性甲状腺炎の女性は3−4歳妊娠年齢が高くなる傾向にあり、その年齢が高い分だけ流産の可能性が上がる。

 慢性甲状腺炎があっても甲状腺ホルモンが適切に投与されていれば、流産率はそれほど上昇しないとも言われています。

慢性甲状腺炎のページ

3)慢性甲状腺炎(橋本病)と不妊治療

慢性甲状腺炎があると高度不妊治療中に
甲状腺機能が低下している可能性がありますが
妊娠率にはあまり影響しません

 一般的な不妊治療(人工授精まで)の場合、慢性甲状腺炎がある時は上に述べたような妊娠率、流産率を考慮しつつ甲状腺機能低下症があれば甲状腺ホルモンを補充しながら不妊治療を行うことになります。
  体外受精などの高度不妊治療(ART)の場合は、状況が少し異なります。結論からいえば妊娠率には影響せず、流産率が上がる可能性があります。ARTにもいろいろありますが。その中でも多くの卵を採取するために卵巣を刺激する時(controlled ovarian hyperstimulation: COH)には、時に妊娠時に匹敵するくらい女性ホルモンであるエストロゲンが大きく上昇することがあります。この時にエストロゲンの影響で増えたTBGのために甲状腺はたくさんホルモンを出して甲状腺ホルモンの機能を維持しなければいけなくなります(甲状腺ホルモンとはの項を参照)。
 慢性甲状腺炎があると甲状腺ホルモンをたくさん出さなければいけない状態に甲状腺がついていけずに甲状腺ホルモンの働きが低下した状態になることが多くなります。甲状腺ホルモンが低下した状態では卵胞の成長が鈍くなり、黄体の機能が低下しやすくなります。しかしARTの時は甲状腺ホルモンの低下をがあっても、その卵胞の成長を妨げる作用を上回るような排卵誘発剤の増量などで対応できている可能性が高いため妊娠率は下がらないと考えられます。しかし流産に関しては上に述べたように(前項の2)慢性甲状腺炎と流産を参照)、薬剤投与だけで解決できない問題が多いために流産率の上昇をARTによって改善できないと考えられます。

人工授精のページ
体外受精のページ
慢性甲状腺炎のページ

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